小菅孝一級建築士事務所
〒357-0205 埼玉県飯能市白子390-7 
伝統工法の知恵
 日本の伝統技術は世界的に見ても冠たるものだと思います。木材の継手仕口に関しては世界の職人が日常的に使用しており、高層建築の制震技術に関しては、最近完成したスカイツリーでさえ1500年以上前の技術を基本にしています。伝統工法の最大の特徴は持続可能で環境と共生していること、自然素材を最大限に利用していることだと思います。
 自然の世界には何の機能も持たない素材は存在しません。素材の性質だけでなくバラバラな形も自然界で生き抜くためには重要な要素なのです。私たちの祖先は現在では考えられないほどの知恵や工夫を積み重ねて伝統を作ってきました。自然の素材には人が考える以上に素材が人のことを考えてできているのです。傷がつきやすいとか、色や形が気に食わないという人の趣味や都合で無視してしまうにはもったいないほど優秀な機能を持っています。建築業界には毎年新しいものができていますが、良し悪しの判断には伝統と比較してみるようにしています。
隠れたところも手を抜かない(美しく朽ちてゆく過程に住まう)
昔ながらの建築はなぜこんなにも手間をかけ、なぜ見えない壁の中まで美しく作るのでしょうか。見えないところでも手を抜かないという道徳的な美学もあったでしょう。材料の性質を利用した建材は存在する間は機能しています。100年200年と風雪に耐える伝統建築は実は朽ちて行く過程に住んでいるのだと思います。造られて行く過程が美しいものはその過程がさかさまになって美しく朽ちて自然に帰ります。 古くなっても美しい建物は無駄につくられているわけではありません。 近代建築の巨匠ル・コルビジェは「住宅は住むための機械である」と言いました。機械の意味合いは時代と共に変わっていますが、現在の住宅は100%そろわないとその機能を発揮しません。機械換気が止まれば安全な家ではなくなってしまうのです。近代住宅は完成した時が最も美しく、劣化してゆく過程に生活しているわけです。 そしてほとんどの人は壊れたポンコツの家に住んでいます。伝統工法にはかないませんね。

耐震・制震・免振(3段階で地震を制御・メンテナンスの周期に合わせる)
地震に対する建物の対処法として現在では3つの方法があります。一つは金物や筋交いなどで補強して剛性を高める耐震。最近まで住宅の地震対策といえば耐震のことでした。しかし近年実物大の試験などで固めることへの限界が露呈して、制震や免振などの工法も普及し始めています。制震とは地震の揺れを吸収して小さく抑える方法で、ダンパーや制震ゴムなどを使って吸収します。免振とは地面と建物の間を可動式にして地震の揺れを建物に伝えないようにする工法です。

 昔はそんな言葉はなかったのでしょうが、伝統工法には上記の3つの効果が期待できることがわかっています。100年単位で起きる巨大地震に対しては石の上に置いてある土台との間で吸収、又は転げ落ちることで免振効果を発揮。30年単位で起きる地震には小舞に塗った土壁のひび割れで吸収。それは、クサビの締め直しや、土壁の化粧直しの時期とも一致するので予想外の負担にはならなかったはずです。毎年おこる程度の地震には土壁の強度で持たせていたと考えられます。法隆寺の5重の塔などでは近代の高層ビルにも通じる免振工法が使われています。


土壁に藁を入れる技術(身近なもので強度と衛生を考る)
昔の民家には当たり前のように使っている土壁ですが、土壁の土を作るときに藁を混ぜて発酵させる過程があります。藁の繊維で割れを防止したり、腐って糊状になることで塗りやすくなるなどの効果は知られていますが、同時に藁の中にある納豆菌を繁殖させることにより他の雑菌を増やさないようにすることもわかってきました。納豆菌は自然界では非常に強い菌なのですが、人体には有益で納豆になるほどで、食べても安全です。食べても安全というのは自然素材を見極めるうえでは大切な判断基準です。最近では消臭や防カビ材としても利用されています。こんな多機能な素材を科学的に作ったらいくらかかるかわかりません。

渡り顎・(乾燥させながら強固な骨組みを作る)
民家本来の渡り顎工法は、未乾燥の丸太材を使って 組み上げ、乾燥して収縮やねじれようとする力で抜けなくなるように工夫されています。骨組みができたら1年くらいかけて乾燥させたそうです。
 曲がった梁をそのまま使うことで柱の長さがバラバラになりますが、地震の時にはバラバラの揺れ方をすることで揺れが大きくなるのを防ぐことができます。梁と柱を立体的に接合させることで横からの力に耐えることができるようになります。
 万が一倒壊してしまった場合にも梁と地面の間には空間が残りますから、梁の下敷きになって亡くなることも少なかったと思います。ちなみに民家の倒壊は現代の筋交い構造のように急激には倒れません。

囲炉裏の火を絶やさない(防虫効果と湿気を呼び込まない技術)
民家の囲炉裏は暖房や、煮炊きなどにも利用され、1年中火を絶やすことなく使われていました。囲炉裏の煙で茅葺の屋根や骨組みを生き物や雑菌から守ったと言われていますが、同時に家の中心を温めることで床下に湿気が溜まることを防いでいたと見ることもできます。古くは竪穴式住居からの文化だと思います。お茶室の床下などは高床式にしながらも地面すれすれの土台まで壁を塗り下ろしており、積極的に換気をしているようには思えません。お椀を伏せたような構造で囲炉裏で温めた空気を逃がさないようにしています。神社や倉庫のように火を使わない建物は風通しを優先に考えて外気との温度差をなくしていたと考えられますが、茶室や民家など、火を使用して人が住む建物は冬のことを考えれば熱を逃がさないようにしたのも当然だと思います。戦後神社仏閣を作っていた宮大工ばかりが技術の伝承者のように扱われてきましたが、彼らは本来人の住まない建物を専門で作っていた訳で、温熱環境に対する文化の継承がなされなかったように思います。戦後床下の風通しが重要になったのは、床下に断熱材を入れるようになってからです。床下を外気よりも少しでも温度を高くしておくことができれば、雨が吹き込まない床下は少しの開口で乾燥させておくことができます。逆に風通しを確保しても冷たい床下では結露を招いて湿気を集めることになります。

主屋と下屋(変化させる部分と)
民家本来の渡り顎工法は、未乾燥の丸太材を使って 組み上げ、乾燥して収縮やねじれようとする力で抜けなくなるように工夫されています。骨組みができたら1年くらいかけて乾燥させたそうです。
 曲がった梁をそのまま使うことで柱の長さがバラバラになりますが、地震の時にはバラバラの揺れ方をすることで揺れが大きくなるのを防ぐことができます。梁と柱を立体的に接合させることで横からの力に耐えることができるようになります。
 万が一倒壊してしまった場合にも梁と地面の間には空間が残りますから、梁の下敷きになって亡くなることも少なかったと思います。ちなみに民家の倒壊は現代の筋交い構造のように急激には倒れません。